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結局、いつまでも引っ付いて離れようとしないドンへの脇腹にパンチを入れてやって、ほぼ無理やりリビングに連れてきた。


「ったく…ホントに風邪引いちゃうだろー?」

「う゛ー…」


ドンへはいつまでも不機嫌なままで、さっきから唸り声しか上げない。
冷水で濡れてしまったドンへの栗色に染まっている髪をドライヤーで乾かしていても、ドンへはむすっとしているだけだった。


「あのなドンへ。シャワーなんて使い方覚えればもうあんなことにはならないし…」

「うー…それじゃなくて…」


てっきりまだシャワーのことを気にしているのかと思って言ってみると、さっきより更に不機嫌そうになったドンへがくるりと振り向いた。


「それじゃなくて…そんなんじゃなくて…」

「はあ?じゃあなんだよ。」

「うー…だから、その…」


もじもじと俯いたり俺の顔を見たりを繰り返しているドンへに「早く」、と催促すると、
ドンへはまだ乾ききっていない髪の毛をわしゃわしゃと大袈裟にかいた。

冷たい水がこっちにまで飛んできて、
あからさまに嫌そうな顔をしてみる。
すると予想通り、ドンへは慌てたように頭をかくのをやめ、顔を上げた。


「あの、ヒョクチェ…」

「ん?」

「その…俺に抱き着かれたの、嫌、だった…?」



シュン、と項垂れてしまったドンへをポカンと見ていると、さっきの映像がリアルに回想されてくる。

さっきはただ、いきなり抱きしめられて、しかも冷たくて、タイルの上で痛くて、それに、ドンへ裸だったから嫌がってただけで、別にそんなに嫌なわけじゃない。

そう、ただドンへが、裸、だったから…



「ヒョクチェ?」


ヒョイっとドンへが俯いてしまった俺の顔を覗き込んできて、思わず後ろへ退いてしまう。


ヤバい。どうしよう。
結構筋肉ある腹筋とか、力強くて長い腕とか、
しっとりとした肌の感触とか、後はいろいろ…。

言い出したらきりがないし、自分がすごく変態な人間みたいでいやだから言わないけど、本当にあれは心臓に悪い。
妙にリアルに蘇ってくるもんだから、心臓が煩くなるし、顔が赤くなるし。



「ヒョクチェ…?大丈夫?」

「…だい、じょうぶ…」


そっか、よかった、とドンへは顔をふにゃりとさせて笑った。
そしてそそくさと俺に背を向ける様な体制に戻って、俺が髪を乾かすのを待つ。


「ドンへ、ドライヤーかけるよ?」


俺は急いでドンへのもとに駆け寄って、ドライヤーを手に取って言った。
うん!と明るく返事をしたドンへの髪に、ドライヤーの暖かい風と自分の指を絡ませていく。


あ、そういえば、嫌じゃなかったと言ってなかった。
でもドンへは何も言わないし、シャワーを浴びる前と変わらず元気そうだし。

そういうところ、わずかではあるが俺への気遣いなのかな、と思うと、また心臓が煩くなる。



「ねえ、ヒョクチェー」

「何?」

「俺、ヒョクチェのこと気に入っちゃったー」



ドンへの笑顔は、ズルい。





心臓が弾けるほど煩いのは、

胸がキュウっと締め付けられるのは、

妙に愛しく目に映るのは。



きっとそれは、恋。












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