―ねえ、ドンへ。
昔からよく、俺は寂しがり屋だと言われていた。
それは俺だって自覚しているし、逆にそれが故人に愛されているんだから、欠点だなんで思ったことがなかった。
ねえ、ヒョクチェ。
本当だね。もうすぐ、冬がやってくるよ。
―ふゆとこいわずらい―
「ねえ、ドンへ。」
少し肌寒いオフの午後。俺とヒョクチェはソンミニヒョンとキュヒョンに奪われたリビングから文句を言いながら出てきて、それでもやっぱりテレビが見たいというヒョクチェの言葉により、俺の部屋に来ていた。
別にヒョクチェの部屋でもいいのに。そう言うと、何故かヒョクチェは嫌だと言った。
俺の部屋は、寒くて嫌だと。
「なあに?ヒョクチェ」
「ねえ、ドンへ。もうすぐ冬が来るよ」
「冬?何言ってるの。まだ秋だよ。もうすぐ秋本番って感じ。」
「違うよ。冬だ。冬が来るんだよ、ドンへ。」
「………ヒョク?」
どこか様子がおかしい。自分の部屋が嫌だと言った時点でどうしたんだろうとは思ったけれど、やっぱり、今日のヒョクチェはどこかおかしい。
「ドンへ、冬だよ。冬は寒くて嫌なのに。」
「うーん…でも、雪が降るよ?綺麗じゃん」
「雪はどうせ溶けちゃうよ。それよりも、俺は寒いのが嫌だ。」
「……ヒョクってそんな冷え性だったっけ?」
しんと静まり返った部屋の中。無機質のように飛ぶ自分たちの会話に、やっぱり違和感を覚える。
じっとテレビを見据えているヒョクチェだけれど、その瞳はテレビなんて映していない。何も映していないようにも見える。
微動だにさずに前を向く姿は美しくもあるけれど、どこか儚く、恐くもあった。
まるでテレビの雑音がBGMだ。すり抜けていくBGMは、何の意味も持たないのに、なぜかなくなってはいけない気がする。
「違うよドンへ。冬になると恐くなるんだ。」
「恐い?」
「そう。冬は寒いから。俺は置いていかれる。」
「…置いていかれる?」
「そうだよ。皆、暖かい場所を求めて人を愛しだすでしょ。そうしたら、俺は一人ぼっちだ。
俺だけ寒いよ、ドンへ。」
「……ひょ、く…」
「ドンへ、冬は嫌だよ。皆最近人を愛しだしたんだ。だから、もうすぐ冬が来る。」
ぼんやりとどこかも分からないようなところを見つめているヒョクチェを、俺はただ見つめた。
何だかよく分からない。ヒョクチェの言っていることの意味が分からない。どうしてだろう。
それでも、雰囲気に流されてしまっているのだろうか。肌を滑る寒さが、えぐみのある悲しみになっていく。無性に泣きたくなる。これが、冬の性なのだろうか。
「………ヒョクチェ、」
「何?」
「俺も…冬は嫌いだよ。すごく。」
「どうして?」
「だって、冬になると皆人の傍にいるでしょ。ヒョクも俺じゃない誰かの傍に行っちゃう気がして、恐いんだ。」
「……そんなの俺だって恐いよ。ドンへは寂しがり屋だから、すぐにどこかに行っちゃう。」
「俺は寂しくなんかないよ。ヒョクさえいれば、俺の冬は暖かいの。どこにも行かないよ。」
「本当?」
「うん、本当」
「じゃあ、もうすぐ冬が来るね。ドンへが、俺のことを愛しだしたから。」
くすくすと笑うヒョクチェは酷く綺麗だ。こんな時に見せる笑顔が綺麗なんて、残酷にもほどがある。
「ドンへ、俺の嫌いな冬が来ちゃうよ。」
「ヒョク、大丈夫。俺がすぐ春を連れてきてあげる。」
「春?」
「そう、春。」
「でも俺、春も嫌いだ。」
「なんで?」
「春になると、皆新しい出会いがあるでしょ?そうしたら、俺は捨てられちゃうから。」
相変わらず、ヒョクチェは前だけを向いている。やっぱり、微動だにしない。
春も嫌いなら、ヒョクチェはいつが好きなんだろう。秋?夏?それとも、ヒョクチェはいつだって、そんなことを考えているんだろうか。
もしそうでも、俺はどうもしてあげられない。ヒョクチェの思考を止めることなんか俺にはできない。本当はずっと前から分かっていたことなんだろう。
「じゃあさ、ヒョク。春になったら、俺がヒョクとまた出逢えばいいよ。新しい出会いをしよう、二人で。」
「……そうしたら、俺は捨てられない?」
「捨てられないよ。ずっと俺が愛してあげる。
夏も秋も、ずっとヒョクだけを愛してあげるよ。」
「なら…なら、俺もそうする。ドンへを捨てないで、愛してあげるよ。」
「本当に?ありがと、ヒョク」
「うん。冬も春も夏も秋も。今日からずっと、愛してあげる。」
そう言ったヒョクチェは笑っていた。やっぱりすごく綺麗だったけれど、瞳の奥が深くくすんでいるような気がした。
BGMがようやく耳に届いたころ、ヒョクチェは俺の右肩に頭を預けて眠っていた。
どうせ目が覚めたらいつもの調子に戻るんだろう。不安だと言っておいて、そうやってフラフラして不安にさせているのはヒョクチェの方なのに。
ねえ、ヒョクチェ。
本当だね、もうすぐ冬が来るよ。だって、ヒョクチェが俺を愛しだしたから。
でも、ね。ヒョクチェ。
そろそろ春がやってきそうな気がして恐いよ。
ヒョクチェが俺を捨てそうで、恐いよ。
どうせ、今日のことなんて全て忘れてしまうんだから。
昔からよく、俺は寂しがり屋だと言われていた。
それは俺だって自覚しているし、逆にそれが故人に愛されているんだから、欠点だなんで思ったことがなかった。
ねえ、ヒョクチェ。
本当だね。もうすぐ、冬がやってくるよ。
―ふゆとこいわずらい―
「ねえ、ドンへ。」
少し肌寒いオフの午後。俺とヒョクチェはソンミニヒョンとキュヒョンに奪われたリビングから文句を言いながら出てきて、それでもやっぱりテレビが見たいというヒョクチェの言葉により、俺の部屋に来ていた。
別にヒョクチェの部屋でもいいのに。そう言うと、何故かヒョクチェは嫌だと言った。
俺の部屋は、寒くて嫌だと。
「なあに?ヒョクチェ」
「ねえ、ドンへ。もうすぐ冬が来るよ」
「冬?何言ってるの。まだ秋だよ。もうすぐ秋本番って感じ。」
「違うよ。冬だ。冬が来るんだよ、ドンへ。」
「………ヒョク?」
どこか様子がおかしい。自分の部屋が嫌だと言った時点でどうしたんだろうとは思ったけれど、やっぱり、今日のヒョクチェはどこかおかしい。
「ドンへ、冬だよ。冬は寒くて嫌なのに。」
「うーん…でも、雪が降るよ?綺麗じゃん」
「雪はどうせ溶けちゃうよ。それよりも、俺は寒いのが嫌だ。」
「……ヒョクってそんな冷え性だったっけ?」
しんと静まり返った部屋の中。無機質のように飛ぶ自分たちの会話に、やっぱり違和感を覚える。
じっとテレビを見据えているヒョクチェだけれど、その瞳はテレビなんて映していない。何も映していないようにも見える。
微動だにさずに前を向く姿は美しくもあるけれど、どこか儚く、恐くもあった。
まるでテレビの雑音がBGMだ。すり抜けていくBGMは、何の意味も持たないのに、なぜかなくなってはいけない気がする。
「違うよドンへ。冬になると恐くなるんだ。」
「恐い?」
「そう。冬は寒いから。俺は置いていかれる。」
「…置いていかれる?」
「そうだよ。皆、暖かい場所を求めて人を愛しだすでしょ。そうしたら、俺は一人ぼっちだ。
俺だけ寒いよ、ドンへ。」
「……ひょ、く…」
「ドンへ、冬は嫌だよ。皆最近人を愛しだしたんだ。だから、もうすぐ冬が来る。」
ぼんやりとどこかも分からないようなところを見つめているヒョクチェを、俺はただ見つめた。
何だかよく分からない。ヒョクチェの言っていることの意味が分からない。どうしてだろう。
それでも、雰囲気に流されてしまっているのだろうか。肌を滑る寒さが、えぐみのある悲しみになっていく。無性に泣きたくなる。これが、冬の性なのだろうか。
「………ヒョクチェ、」
「何?」
「俺も…冬は嫌いだよ。すごく。」
「どうして?」
「だって、冬になると皆人の傍にいるでしょ。ヒョクも俺じゃない誰かの傍に行っちゃう気がして、恐いんだ。」
「……そんなの俺だって恐いよ。ドンへは寂しがり屋だから、すぐにどこかに行っちゃう。」
「俺は寂しくなんかないよ。ヒョクさえいれば、俺の冬は暖かいの。どこにも行かないよ。」
「本当?」
「うん、本当」
「じゃあ、もうすぐ冬が来るね。ドンへが、俺のことを愛しだしたから。」
くすくすと笑うヒョクチェは酷く綺麗だ。こんな時に見せる笑顔が綺麗なんて、残酷にもほどがある。
「ドンへ、俺の嫌いな冬が来ちゃうよ。」
「ヒョク、大丈夫。俺がすぐ春を連れてきてあげる。」
「春?」
「そう、春。」
「でも俺、春も嫌いだ。」
「なんで?」
「春になると、皆新しい出会いがあるでしょ?そうしたら、俺は捨てられちゃうから。」
相変わらず、ヒョクチェは前だけを向いている。やっぱり、微動だにしない。
春も嫌いなら、ヒョクチェはいつが好きなんだろう。秋?夏?それとも、ヒョクチェはいつだって、そんなことを考えているんだろうか。
もしそうでも、俺はどうもしてあげられない。ヒョクチェの思考を止めることなんか俺にはできない。本当はずっと前から分かっていたことなんだろう。
「じゃあさ、ヒョク。春になったら、俺がヒョクとまた出逢えばいいよ。新しい出会いをしよう、二人で。」
「……そうしたら、俺は捨てられない?」
「捨てられないよ。ずっと俺が愛してあげる。
夏も秋も、ずっとヒョクだけを愛してあげるよ。」
「なら…なら、俺もそうする。ドンへを捨てないで、愛してあげるよ。」
「本当に?ありがと、ヒョク」
「うん。冬も春も夏も秋も。今日からずっと、愛してあげる。」
そう言ったヒョクチェは笑っていた。やっぱりすごく綺麗だったけれど、瞳の奥が深くくすんでいるような気がした。
BGMがようやく耳に届いたころ、ヒョクチェは俺の右肩に頭を預けて眠っていた。
どうせ目が覚めたらいつもの調子に戻るんだろう。不安だと言っておいて、そうやってフラフラして不安にさせているのはヒョクチェの方なのに。
ねえ、ヒョクチェ。
本当だね、もうすぐ冬が来るよ。だって、ヒョクチェが俺を愛しだしたから。
でも、ね。ヒョクチェ。
そろそろ春がやってきそうな気がして恐いよ。
ヒョクチェが俺を捨てそうで、恐いよ。
どうせ、今日のことなんて全て忘れてしまうんだから。
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