今まで何不自由なく生きてきた。
沢山の人から愛されて、沢山の人から必要とされて。
なのに、どうして君は、僕の世界を暗くするの?
―ディープイエロー―
楽屋への帰り道。ふと騒がしくなりはじめた廊下に目をやると、何やら人込みが。
そしてその人込みの中心で高らかに笑っているのは、見慣れた顔のヒョクチェ。
ヒョクチェはいつもああやって人の中心にいる。ヒョクチェの笑顔には、自然と人が集まってくる。
それは俺にない要素であって、俺はいつもそれが羨ましかった。でも、そう言うといつもヒョクチェは悲しそうな顔をする。
ヒョクチェは愛されたいと言う。
誰かに愛されたい。ドンへみたいに、誰かに必要とされたい、と。
俺は思う。ヒョクチェは充分に愛されている。必要とされている。なのに、なんでそんなことを言うんだろう。
俺が、ヒョクチェを愛しているというのに。
「ヒョクチェ」
人込みから少し離れたところで名前を呼ぶ。
するとちらりと黒目がちな瞳が此方を向いた。
その瞳が好きだ。何にも捕らわれていないような、その瞳が。
俺はヒョクチェを愛しているのに、ヒョクチェは俺を愛してはくれない。
愛してると言えば当たり前のように返ってくる愛してるが、俺には怖くて仕方がない。
「もう皆戻っちゃうよ。ヒョクも行こう?」
「あ…俺はいいよ、あとで行く。」
「だーめ。迎えの車も来ちゃうでしょ。ヒョクだけ遅れると迷惑かかるよ」
〝迷惑〟の言葉に、ヒョクチェの瞳が動く。
ヒョクチェはそういうのに弱い。迷惑をかけたら嫌われてしまうから。愛されなくなってしまうから。
心底バカだと思う。ヒョクチェは心配のしすぎだ。
「ね、話なら電話でもメールでもできるよ」
「……うん」
「じゃあ行こう。ヒョンに怒られちゃう」
「あ、ちょっと待って」
ヒョクチェは自分を取り囲んでいた人間一人一人に優しく微笑んで、「またな!」なんて言って手をひらひらと振る。
そんな事しなくたっていい。そんな事しなくたってヒョクチェは充分に愛されている。
だから、それ以上愛されないで。俺だけに愛されてればいいじゃん。なんで分かってくれないの?
ヒョクチェは俺を愛しているという。俺が必要だと、俺の傍にいると。
でもそれは中身のない空っぽな音でしかなくて、力のない瞳で告げられれば、それは俺の思考をかき乱すものにしかならない。
俺はヒョクチェに愛されたい。空っぽな音じゃなくて、笑う瞳の光と一緒に、愛してるが聞きたい。
「ごめん、ドンへ」
「ん?」
「遅く、なっちゃって…」
「ああ、いいよ、別に。遅れても、怒られるときは一緒でしょ?」
「でも、それじゃあドンへに迷惑かかってるよ」
「いいの。だって、ヒョクはずっと俺の傍にいてくれるんでしょ?」
こういえばヒョクチェから返ってくる答えなんてすぐ分かる。だからいつだってそう投げかける自分は狡いのだろうけど、空っぽでも、それがなければ俺は生きていけない。
「……うん…」
「ね?じゃあ怒られるときも一緒でいいじゃん。違う?」
「…違わない…」
「ん、いい子。」
「……ドンへ、」
「何?」
「俺のこと、愛してるって言って…」
「……え…?」
俺は耳を疑う。今、ヒョクチェが口にした言葉の意味が分からなかった。
「愛してるって、俺だけの傍にいるって言ってよ」
うっすらと涙の幕が張りはじめている瞳がゆらゆら揺れる。頼りない声は震えていて。
ヒョクチェがそんなことを言うのは初めてだった。いつもは俺がそう言って、空っぽな愛してるが返ってくるのを待っているのに。
本当なら嬉しいはずなんだろう。でも、どうしても俺の心に一番近いところは苦しいと悲鳴を上げる。
だってその言葉でさえ空っぽな気がしてならない。ただ寂しさを埋めるための言葉に聞こえてしまう。
ヒョクチェは俺を愛していない。だから、そんなに残酷なことが云えるんだ。
「……愛してるよ、ヒョク。俺はヒョクだけの傍にいる。」
そう言うと、ヒョクチェは笑った。でも、その笑顔は苦しそうで、とても見てなんていられなかった。
俺のことを愛しているなら、そんなに苦しそうな顔をしない。だから、やっぱりヒョクチェの言葉は空っぽだ。
「ドンへ」
「ん…?」
「明日は待ってなくていいよ」
「なんで?」
「一人で帰りたい。一人になりたいんだ。」
そう言ってぼんやりと遠くを見つめるヒョクチェは悔しいくらいに綺麗で、俺はその先言葉をつなげられなくなってしまう。
こんなに綺麗なヒョクチェに愛されたら、俺の世界は色を変えてくれるのに。
眩しいくらいの光色になってくれるのに。
俺の世界は、あと少しで光色になってくれる。
何もかも思い通りの世界は、ヒョクチェに愛されることで、完璧に光り輝く。
「ヒョク、」
「ん?」
「じゃあ、明日はヒョクのこと待ってるよ」
「……は…?」
「一人になるなら、俺の傍で一人になって。そんな時まで傍にいたいんだ。」
ちらりとヒョクチェを見ると、頬にきらりと光る筋ができていた。
どうしてそんなに苦しそうなのか、どうして泣くのか、俺にはまだ分からない。
ヒョクチェが俺を愛してくれさえすれば。
俺の世界は光色に変わる。ヒョクチェの全てを包んであげられる。
だからヒョクチェ。
俺を愛して、俺の世界を完璧な光色に変えて。
沢山の人から愛されて、沢山の人から必要とされて。
なのに、どうして君は、僕の世界を暗くするの?
―ディープイエロー―
楽屋への帰り道。ふと騒がしくなりはじめた廊下に目をやると、何やら人込みが。
そしてその人込みの中心で高らかに笑っているのは、見慣れた顔のヒョクチェ。
ヒョクチェはいつもああやって人の中心にいる。ヒョクチェの笑顔には、自然と人が集まってくる。
それは俺にない要素であって、俺はいつもそれが羨ましかった。でも、そう言うといつもヒョクチェは悲しそうな顔をする。
ヒョクチェは愛されたいと言う。
誰かに愛されたい。ドンへみたいに、誰かに必要とされたい、と。
俺は思う。ヒョクチェは充分に愛されている。必要とされている。なのに、なんでそんなことを言うんだろう。
俺が、ヒョクチェを愛しているというのに。
「ヒョクチェ」
人込みから少し離れたところで名前を呼ぶ。
するとちらりと黒目がちな瞳が此方を向いた。
その瞳が好きだ。何にも捕らわれていないような、その瞳が。
俺はヒョクチェを愛しているのに、ヒョクチェは俺を愛してはくれない。
愛してると言えば当たり前のように返ってくる愛してるが、俺には怖くて仕方がない。
「もう皆戻っちゃうよ。ヒョクも行こう?」
「あ…俺はいいよ、あとで行く。」
「だーめ。迎えの車も来ちゃうでしょ。ヒョクだけ遅れると迷惑かかるよ」
〝迷惑〟の言葉に、ヒョクチェの瞳が動く。
ヒョクチェはそういうのに弱い。迷惑をかけたら嫌われてしまうから。愛されなくなってしまうから。
心底バカだと思う。ヒョクチェは心配のしすぎだ。
「ね、話なら電話でもメールでもできるよ」
「……うん」
「じゃあ行こう。ヒョンに怒られちゃう」
「あ、ちょっと待って」
ヒョクチェは自分を取り囲んでいた人間一人一人に優しく微笑んで、「またな!」なんて言って手をひらひらと振る。
そんな事しなくたっていい。そんな事しなくたってヒョクチェは充分に愛されている。
だから、それ以上愛されないで。俺だけに愛されてればいいじゃん。なんで分かってくれないの?
ヒョクチェは俺を愛しているという。俺が必要だと、俺の傍にいると。
でもそれは中身のない空っぽな音でしかなくて、力のない瞳で告げられれば、それは俺の思考をかき乱すものにしかならない。
俺はヒョクチェに愛されたい。空っぽな音じゃなくて、笑う瞳の光と一緒に、愛してるが聞きたい。
「ごめん、ドンへ」
「ん?」
「遅く、なっちゃって…」
「ああ、いいよ、別に。遅れても、怒られるときは一緒でしょ?」
「でも、それじゃあドンへに迷惑かかってるよ」
「いいの。だって、ヒョクはずっと俺の傍にいてくれるんでしょ?」
こういえばヒョクチェから返ってくる答えなんてすぐ分かる。だからいつだってそう投げかける自分は狡いのだろうけど、空っぽでも、それがなければ俺は生きていけない。
「……うん…」
「ね?じゃあ怒られるときも一緒でいいじゃん。違う?」
「…違わない…」
「ん、いい子。」
「……ドンへ、」
「何?」
「俺のこと、愛してるって言って…」
「……え…?」
俺は耳を疑う。今、ヒョクチェが口にした言葉の意味が分からなかった。
「愛してるって、俺だけの傍にいるって言ってよ」
うっすらと涙の幕が張りはじめている瞳がゆらゆら揺れる。頼りない声は震えていて。
ヒョクチェがそんなことを言うのは初めてだった。いつもは俺がそう言って、空っぽな愛してるが返ってくるのを待っているのに。
本当なら嬉しいはずなんだろう。でも、どうしても俺の心に一番近いところは苦しいと悲鳴を上げる。
だってその言葉でさえ空っぽな気がしてならない。ただ寂しさを埋めるための言葉に聞こえてしまう。
ヒョクチェは俺を愛していない。だから、そんなに残酷なことが云えるんだ。
「……愛してるよ、ヒョク。俺はヒョクだけの傍にいる。」
そう言うと、ヒョクチェは笑った。でも、その笑顔は苦しそうで、とても見てなんていられなかった。
俺のことを愛しているなら、そんなに苦しそうな顔をしない。だから、やっぱりヒョクチェの言葉は空っぽだ。
「ドンへ」
「ん…?」
「明日は待ってなくていいよ」
「なんで?」
「一人で帰りたい。一人になりたいんだ。」
そう言ってぼんやりと遠くを見つめるヒョクチェは悔しいくらいに綺麗で、俺はその先言葉をつなげられなくなってしまう。
こんなに綺麗なヒョクチェに愛されたら、俺の世界は色を変えてくれるのに。
眩しいくらいの光色になってくれるのに。
俺の世界は、あと少しで光色になってくれる。
何もかも思い通りの世界は、ヒョクチェに愛されることで、完璧に光り輝く。
「ヒョク、」
「ん?」
「じゃあ、明日はヒョクのこと待ってるよ」
「……は…?」
「一人になるなら、俺の傍で一人になって。そんな時まで傍にいたいんだ。」
ちらりとヒョクチェを見ると、頬にきらりと光る筋ができていた。
どうしてそんなに苦しそうなのか、どうして泣くのか、俺にはまだ分からない。
ヒョクチェが俺を愛してくれさえすれば。
俺の世界は光色に変わる。ヒョクチェの全てを包んであげられる。
だからヒョクチェ。
俺を愛して、俺の世界を完璧な光色に変えて。
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