そろそろ夏が終わる。


時間の流れがやけにゆったりとしてきて、目の前の景色が美しく色づいてくる。
まったりのんびり。穏やかで静かな一日。



そんなどこにでもある風景を切り取った話を、今から始めよう。







―スイート・ユー―








麗らかな午後、というには相応しすぎるとあるオフの午後。
特にすることもなく適当にチャンネルを回していると、俺が座っているソファに、
確認するまでもなくドンへが座った。



「ひょくー」

「………何、」




オフの日のドンへは煩い。元から煩い奴だったけど、やっぱりオフの日はテンションが上がるんだろう。

そのこと自体は別にどうだったいい。問題はそこではない。
テンションの高いドンへはやたらと俺に触る、引っ付く。
それは決して可愛らしいものではなくて、ドンへの場合は、こう…よからぬこと、というか。



「あ、ひょく、ほっぺた睫ついてる」

「んー、自分でとる」

「や!だめ!俺がとる!!」



いつの間にか俺の顔をべたべたと触っていたドンへが、
喉にへばり付くみたいな甘ったるい声を出す。

いいからじっとしてて!なんて、いや全然よくないんだけど。
でも俺だって折角のオフだしゆっくりしたい。
もうドンへなんてどうだって良くなって、俺は一つ深いため息を吐いて、
興味の無いテレビ画面に視線を戻した。




「ッ!?」



すると、不意に頬に衝撃が走る。
痛い、と言えばそうなんだけど、じくじくするような。



「ふふ、ひょく、ほっぺ赤くなっちゃった」



酷くにこにことしたドンへの指がするりと頬を撫でる。
何だか嫌な予感しかしなくて、俺はどうでもいいようなことで笑い声が響いているテレビを
そのままに、洗面所へ駆け込んだ。




「う、わ…!」



洗面所の鏡に映る自分の顔。視線を頬にやると、
左頬に、赤くて生々しい跡が一つ。
…これだから嫌なんだ、ドンへと過ごす休日は。


俺は二回目のため息を漏らす。
一回目より勢いを増しているのは、きっと気のせいではない。




 *******




のんびりと楽屋で携帯を弄っていると、後方から白い腕が伸びてきて、ツン、と頬を人差し指で突かれた。
何かと思って振り向くと、整った眉を下げて
心配そうに笑うソンミンがいた。



「ヒョクチェ、ほっぺた痣?大丈夫?」

「へ…?」



ここ、ともう一度さっきよりも強めに左頬を突かれると、
何かが弾け飛んだみたいに昨日の出来事がクリアに浮かんでくる。

一瞬で赤くなる顔。ああこんなの最悪だけれど、
熱が妙に左頬の一点に集まっていることは、どうやら否定できそうにない。





結局、俺はドンへに甘い。
でも、それよりも甘いドンへの笑みと、もっともっと甘い跡のせいできっとそうなったんだから、
責任くらいはとってほしい。

ちゃんとそう打ち明けようか。いや、ドンへのことだから調子に乗るかもしれない。






―次のオフ、楽しみだなんて、俺らしくないのにね。









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