※「波打ち際に想いを。」の続編ではありません。テーマなどが似ているため、タイトルを似たものとさせていただきました。



―――――――――――――――――――――――








あの頃の僕は、

眩しい空と、優しすぎる風と、甘くて柔らかい匂いに包まれて、



笑い合っていた、君と二人で。





―眩しい青に想いを。―








チリン、と微かな音が縁側中に響いて、思わず目を細める。
さっきまでかぶりついていた真っ赤なスイカは、この暑さの中でも、まだ冷たい。


そよそよと流れる風は、もう夏の終わりを示している。
この縁側とも、足を冷やしている氷水の入ったボウルとも、
また距離を置く季節がやってくる。



ぼんやりと外を眺めていた。
何の意味もなく、ただぼんやりと。
高校3年生の夏休みは、後数日しか残っていない。
課外とか、バイトとか、部活とか、まあ、恋愛は上手くいかなかったけど。
それなりに充実していたし、いい思い出は、沢山出来た。



「おーい!ヒョクチェー!!」


ごろんと縁側に横になった時、不意に名前を呼ばれて、ヒョクチェは飛び跳ねた。
風鈴が風に流されて、食べかけのスイカは、赤くて甘そうな果汁がお盆に溜まっていた。


季節は、夏だ。



「ヒョクー!みんなで海いこーよー!!!」

「海!?ちょっと待って!今行く!!」


ヒョクチェはすごい勢いで自室に向かう。
適当な段から服を引っ張り出して、急いで着ている部屋着を脱ぎ捨てた。

海だ。俺の大好きな、海。
ここら辺では、海は若者の集う場所。俺だって、この夏休みに何回言ったかは数えられない。


そしてもう一つ。俺が楽しみな理由は…



「ヒョクチェー?まだー?」


上のスエットを脱ぎかけだったヒョクチェは、その声に我に返って、
急いで脱ぎ捨てる。
適当に選んだ服をかぶるように勢いよく着ると、水着とかタオルとか、
海やプールに必要なセットが入っている防水性の袋を掴みとって、外へ出た。



「おっ、お待たせ!!!」


息を切らしてヒョクチェが言うと、「全然大丈夫」、と甘い笑顔で笑ったリョウク。
大きな欠伸をしながら、「遅…」、と呟いたキュヒョン。

そして、「ヒョクー!」と俺に抱き着いてきた、ドンへ。

さっきから俺を呼んでいる張本人だ。


「さ、揃ったことだし、早くいこ!!」



3人を見渡して、ドンへは満足そうに笑ってそう言った。
相変わらず俺に抱き着いて離れない。正直超がつくほど暑苦しいけど、
許してしまう俺は、相当重症なのだろうか。



「よし!じゃあヒョクは俺とニケツねー」


ドンへはやっと俺から離れて、嬉しそうに言って自転車を近くまで押してくる。
使い古しの自転車だ。元々そんなに裕福ではないドンへが、唯一持っている自転車。

坂道を一気に下ると、ミシミシと不安な音がするけど、それでもいい。
だってドンへと二人乗りなんて、嬉しすぎる。



ヒョクチェは先にまたがったドンへのすぐ後ろに座る。
少し乗り心地は悪いけど、金具のひんやりとした温度は冷たくて丁度いい。



「おっしゃ!しゅっぱーつ!!!」


ドンへは後ろのキュヒョンとリョウクに振り返って、満面の笑みを見せた。
その途端、自転車は勢いよくギュンッと進み、俺は慌ててドンへの腰にしがみつく。


「ヒョク、ちゃんとつかまっててね!!」

「え、ちょ…おわっ!!!」


ドンへは俺がつかまったのをいいことに、ぐんぐんとスピードを上げていく。
俺はしがみ付くだけで精一杯なわけで、思わずドンへの腰に回している腕に力を込めた。


甘い匂いが、鼻孔を掠める。
ドンへの、匂いだ。



どうしよう。心臓が煩い。
ふわりと甘ったるい匂いが鼻を通るたびに、心臓が痛いくらいに飛び跳ねて、
バクバクと高鳴っている。


意外とついている筋肉。フワフワと風に乗る髪の毛。熱い体温。
ただの自転車なのに、俺はもう酔ってしまいそうで。



「……ドンへ」

「ん?」

「二人乗りって、いいな…」



長くもない髪の毛が、さらりと揺れて視界に入る。

ドンへが、「でしょー?」と嬉しそうに笑って、スピードをあげたからだろうか。





――好きだよ、ドンヘ…




想いが伝わればいいのに。
俺はそう思って、もっと強く、ドンへにしがみついた。


クラクラするような胸の高鳴りは、少しずつ心地よくなっていく。




チリン、と、遠くで風鈴が揺れたような気がした。










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