ドンへはバカだ。


俺にばっかり引っ付いて、

俺にばっかり話しかけて、

俺にばっかり甘い笑顔を向けて。



どうやらアイツ、俺のことが好きらしい。





―恋するアイツ。―






「ヒョクー!!」


ガバリ、といきなり背中にドンへが飛びついてきて、ヒョクチェは思わずよろける。
それでもお構いなしに体重をかけてくるドンへを、ヒョクチェは軽く睨んだ。


「重いドンへ!!つーか熱い!ウザい!邪魔!」

よたよたとよろけながら批難の声をあげても、
ドンへは一向に動こうとしない。
それどころか、すりすりと背中に顔を擦りつけてくる。まったく、今は夏だぞ?


「ヒョクーあったかーい」

「…俺は暑苦しいの」

「ヒョクー!!!」

「あーもうウザい!!」


べたべたとへばり付いてくるドンへの腹を、ヒョクチェは肘で思いっきり押す。
ぐえ、と間抜けな声を出して蹲ったドンへを一睨みすると、ヒョクチェは満足げに笑う。


「…ったく、いい年してべたべたするから」

「うぅ…ヒョク…」


ざまーみろ。人の目も気にしないでべたべたしてくるから。
ちょっとはこれで反省するだろう。

そうすれば俺だってもうちょっと優しくしてやるし、ちょっとはべたべたしてやるし…


「うわっ!!!」


ドンへに背を向けて楽屋の椅子に腰を落とそうとしたら、ヒョクチェの腹の周りに腕が絡みつく。
座るのを阻止された挙句、無理な体制で止められて、ヒョクチェは思わず声をあげた。


「ドンへ!何すんだよ!!」

「だってー、ヒョクが酷いことするからー」

「お前な…いい加減にしろ。なんで俺にばっかり引っ付いてくるんだよ」


うんざり、というようにヒョクチェがため息をつくと、ドンへは耳元でふふっと楽しそうに笑った。

なんだこいつ。絶対懲りてない。
というか、こいつが懲りることなんてあるのだろうか。


「へへーん!ヒョク!!俺がなんでヒョクだけにべたべたするか分かる?」

「…はあ?」

「それはね、俺、ヒョクのこと好きだから!」

「……あ、そ。うん。」


心底呆れる。なんだそれ。


身を捩ってドンへの腕の中からヒョクチェが逃げると、ドンへはまたもや煩い声で「ヒョクー!」と叫んでくる。

本当にバカ。こいつ、バカだとは分かっていたが、ここまでだったとは。


「ヒョクってばー!なんで冷たいのー?」

「ドンへがウザいから。」

「なんで!?いいじゃん別に!」

「大体なお前、なんで俺なわけ?もっと可愛い女の子とか、美人なことか…」


ヒョクチェは呆れ顔で言うと、ドンへはきょとんとしたような顔になる。
ただでさえのアホ面が、いっそう酷くなった。

そんなきょとんとすることでもない。
だって当たり前だろ?男なんだし。
可愛くて美人な女の子を好きになって、付き合いたいって思うのは。


なのに案の定、ドンへはまたバカのことを言う。


「別に、ヒョクも充分可愛いと思うけど?」


…ああもう、勝手にしろ。



「俺が好きなの!それでいいじゃん!!」



どうやらコイツ、俺に恋をしているらしい。







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