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スタジオを出てすぐのところに、庭式の植物園がある。
何本か木が生えているだけだけど、テレビに出ている人間としては、絶好の隠れ家だ。

いつもここで、ヒョクチェのことを待っている。
待っているのはいっつも、俺。



「…さみ…」


庭園のベンチに腰を下ろして待っていると、冷たい北風が頬を掠めて、思わず呟いた。
今日のヒョクチェは随分遅い。
いつもなら、遅くても待って10分程度なのに、今日に限っては、もう20分はゆうに超えている。


「ヒョクー…」

「………なんだよ…」


ベンチの上で体育座りをして、膝に顔を埋めてヒョクチェの名前を呼ぶと、あろうことか返事が返ってきた。
慌てて顔を上げると、既にヒョクチェは俺の隣に腰を下ろして、寒いのか両手を擦り合わせていた。


「ごめん、ちょっと長引いちゃって…」


はーっと手に息を吹きかけながら、ヒョクチェは眉を下げて言った。
ずっと待っていたからだろうか。その様子がすごく愛しくて、思わず衝動的に、ヒョクチェに抱き着いた。


「ヒョク、寒かった…」

「……」

「もう、こないかと思った…」


すりすりと頭をヒョクチェの体にこすり付けていると、
頭の上で、「ドンへ」、といつもより低めの声がした。
その声に反応して顔を上げると、黒目がちなヒョクチェの大きな瞳から、はたりと涙が零れ落ちた。


「…ッどんへ…」

「え、ちょ、ヒョク!?」

「どんへ、ごめん…」


ねえ、ヒョク。

どうして、謝るの?


「ごめん、ドンへ…」


ねえ、ヒョク。

どうして、涙を流すの?


「重いよ、ドンへ…」

「え…」

「もう、ホント、ごめん…」



ポタリと、ヒョクチェの瞳から零れた涙が頬に落ちる。
涙は温くて、冷たくて、酷く心に刺さった。


「ごめん、ドンへ…」



もう、何も言ってくれないの?




重いってなんだよ。

「やり直そう」って言ってくれないの?

どうしてそんなに謝るの?

なんで、なんでヒョクが泣くの…?




―最初から俺のことなんて、好きじゃなかったんでしょ?




ごめんね、我儘で。

ごめんね、泣き虫で。

ごめんね、愛することしかできなくて。



「ヒョク…」



でも、お願いだから、傍にいてよ。

今は好きじゃなくていい。振り向かせて見せるから。





お願い、行かないでよ。





「ドンへ、ごめん…」




―でも、俺が何を思っても、ヒョクチェはただ謝って、泣いているだけだった。




〝ごめん〟



本当に謝らなくちゃいけないのは、俺か、ヒョクチェか。







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