どうして分かってくれないんだろう。
他の人にはないものを君は持っているのに。
僕が、それを求めているというのに。
―One thing―
事件はとある楽屋で起こった。
いつもみたいにメイク待ちの間携帯を弄っていると、遠くの方から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「うそ!ヒョクチェオッパだ!!」
「やば!ちょーかっこいいー!!」
〝ヒョクチェ〟の単語にピクリと耳が動く。
何事かと思って振り向くと、隣にいたキュヒョンから小さなため息が聞こえてきた。
だって仕方がない。俺はヒョクチェが好きで好きで仕方がないんだから。どんなときだって、ヒョクチェの傍にいたいんだから。
「あの、私オッパの大ファンなんです!もうすっごい!」
「わ、私もです!こんなところで会えるなんて嬉しいです!」
きゃっきゃと可愛らしく騒ぐ二人の女の子は、おそらく新人アイドルの子だろう。ああ、そんなに短いスカート履いちゃって!
女の子たちに言い寄られているヒョクチェだって、戸惑いながらも満更ではなさそうで。
いや、はっきり言うと嬉しそう。超絶嬉しそう。
そりゃ誰だって可愛いアイドルの子からファンだとかかっこいいだとか言われれば
嬉しいだろうよ。うん、そこはいいよ。
問題はそこではない。
さっきからチラチラとヒョクチェを盗み見る怪しい視線の数々。熱い視線…と言ったって間違いじゃない!
誰だ誰だ!俺のヒョクチェをやらしい視線で見つめる奴は!
そう思って辺りを見回すと、まず廊下で立ち話をしている後輩。(オトコ)
そしてその後輩と立ち話をしているマネージャー。(オトコ)
それから楽屋でせっせと動いているスタイリスト。(オトコ)
それから減ることなくヒョクチェに降り注ぐ視線。
俺はもう耐えきれなくなって視線を戻した。
「………ドンへヒョンも大変なんですね、意外と。」
鼻で笑ったキュヒョンの言葉に、俺は深いため息を吐く。
そうだ。問題はこれなのだ。
ヒョクチェは自分の価値を分かっていない。だから熱視線にも全然気が付かない。だから俺は気が気じゃない。
チラリとヒョクチェを見ると、女の子たちにひらひらと手を振っていた。
あ、こっちにくる。あーあ、そんなご機嫌な顔しちゃって。可愛いからやめて!
「どんへ、どんへ!」
嬉しそうに俺の名前を呼ぶヒョクチェ。もうだから可愛いからやめて!でもその可愛さで生きていける!!
「どんへ聞いて!俺のファンだって子が今来たの!可愛かった!」
「ふーん…」
「なんかね、『オッパのダンスが一番かっこいいです!』だって!」
「へー…」
「やっぱ俺の最大の魅力はダンスだよな!どんへ!」
俺が曖昧な相槌しか返していないというのに、ヒョクチェは嬉しそうに話し続ける。
あの女の子たちは何も分かっていない。
確かにヒョクチェの魅力はダンスでもあるけど、それだけじゃなんだ。
今みたいにふわふわと笑う顔も、意地っ張りで素直じゃない性格も、鈍感なくせに鋭いところも、子供みたいな寝顔も。
ヒョクチェという存在自体が、唯一しかない者なのに。
頭の中をぐるぐるぐるぐる。俺の頭の中はヒョクチェだけでいっぱいで。
「な、ドンへ」
「ん?」
「これあげる」
未だに笑顔のヒョクチェが、俺に向かって何かを投げる。
咄嗟に受け取ったそれを見てみると、何故かのど飴。あれ?俺風邪ひいてたっけ?
「それ、さっきの女の子たちに貰ったやつ」
「え、なんで?ヒョクチェが貰ったんでしょ?」
「でもドンへにあげる」
「……俺風邪なんてひいてないよ?」
きょとん、としてヒョクチェの顔を覗き込むと、ほんのり紅潮した頬が視界に入る。
ほら、そういうところまでもヒョクチェじゃないとときめかない。これでまた、俺の頭の中のヒョクチェが膨らんでいく。
「……て…だろ…」
「え?なんて?」
「だって!お前この間喉痛いって言ってただろ!!忘れたのかよバカ!」
ぷいっと勢いよく顔を逸らしてしまったヒョクチェの言葉を辿ると、行きつくのは三日前の話。
そう言えば、続く歌番組の収録とドラマ撮影で喉が痛いってヒョクチェに嘆いてたっけ。
あの時のヒョクチェはあっそ、で終わってたけど、まさか覚えていてくれたなんて。そしてこんなものをくれるなんて…。
「…ッひょく大好きーーー!!!!!」
「うわぁッ!!!」
ガバリ、なんて可愛く聞こえるほどの勢いでヒョクチェに抱き着くと、
周りから睨むような視線が突き刺さる。
その視線の中に、ヒョクチェに熱視線を送っていた人間の視線も混じっていると思うと、
この上ない優越感、そして愛おしさ。
「ちょ、やめろ!痛い!重い!」
ヒョクチェが吐く毒なんて今の俺にとっては恋にしかならない。
やっぱり、ヒョクチェは俺が一番求めている唯一のものを持っている。
それはヒョクチェにしかない。だから、俺の頭はまたヒョクチェだけでいっぱいになる。
でも、ねえヒョクチェ。そろそろ、俺のものになってよ。
One thing
だから出ていってくれ
僕の頭から出ていって
そして僕の腕の中に堕ちてきてよ
これがなんなのかは分からないけど
僕はその『唯一』のものが欲しいんだ
そして、君はそれを持っているんだよ
他の人にはないものを君は持っているのに。
僕が、それを求めているというのに。
―One thing―
事件はとある楽屋で起こった。
いつもみたいにメイク待ちの間携帯を弄っていると、遠くの方から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「うそ!ヒョクチェオッパだ!!」
「やば!ちょーかっこいいー!!」
〝ヒョクチェ〟の単語にピクリと耳が動く。
何事かと思って振り向くと、隣にいたキュヒョンから小さなため息が聞こえてきた。
だって仕方がない。俺はヒョクチェが好きで好きで仕方がないんだから。どんなときだって、ヒョクチェの傍にいたいんだから。
「あの、私オッパの大ファンなんです!もうすっごい!」
「わ、私もです!こんなところで会えるなんて嬉しいです!」
きゃっきゃと可愛らしく騒ぐ二人の女の子は、おそらく新人アイドルの子だろう。ああ、そんなに短いスカート履いちゃって!
女の子たちに言い寄られているヒョクチェだって、戸惑いながらも満更ではなさそうで。
いや、はっきり言うと嬉しそう。超絶嬉しそう。
そりゃ誰だって可愛いアイドルの子からファンだとかかっこいいだとか言われれば
嬉しいだろうよ。うん、そこはいいよ。
問題はそこではない。
さっきからチラチラとヒョクチェを盗み見る怪しい視線の数々。熱い視線…と言ったって間違いじゃない!
誰だ誰だ!俺のヒョクチェをやらしい視線で見つめる奴は!
そう思って辺りを見回すと、まず廊下で立ち話をしている後輩。(オトコ)
そしてその後輩と立ち話をしているマネージャー。(オトコ)
それから楽屋でせっせと動いているスタイリスト。(オトコ)
それから減ることなくヒョクチェに降り注ぐ視線。
俺はもう耐えきれなくなって視線を戻した。
「………ドンへヒョンも大変なんですね、意外と。」
鼻で笑ったキュヒョンの言葉に、俺は深いため息を吐く。
そうだ。問題はこれなのだ。
ヒョクチェは自分の価値を分かっていない。だから熱視線にも全然気が付かない。だから俺は気が気じゃない。
チラリとヒョクチェを見ると、女の子たちにひらひらと手を振っていた。
あ、こっちにくる。あーあ、そんなご機嫌な顔しちゃって。可愛いからやめて!
「どんへ、どんへ!」
嬉しそうに俺の名前を呼ぶヒョクチェ。もうだから可愛いからやめて!でもその可愛さで生きていける!!
「どんへ聞いて!俺のファンだって子が今来たの!可愛かった!」
「ふーん…」
「なんかね、『オッパのダンスが一番かっこいいです!』だって!」
「へー…」
「やっぱ俺の最大の魅力はダンスだよな!どんへ!」
俺が曖昧な相槌しか返していないというのに、ヒョクチェは嬉しそうに話し続ける。
あの女の子たちは何も分かっていない。
確かにヒョクチェの魅力はダンスでもあるけど、それだけじゃなんだ。
今みたいにふわふわと笑う顔も、意地っ張りで素直じゃない性格も、鈍感なくせに鋭いところも、子供みたいな寝顔も。
ヒョクチェという存在自体が、唯一しかない者なのに。
頭の中をぐるぐるぐるぐる。俺の頭の中はヒョクチェだけでいっぱいで。
「な、ドンへ」
「ん?」
「これあげる」
未だに笑顔のヒョクチェが、俺に向かって何かを投げる。
咄嗟に受け取ったそれを見てみると、何故かのど飴。あれ?俺風邪ひいてたっけ?
「それ、さっきの女の子たちに貰ったやつ」
「え、なんで?ヒョクチェが貰ったんでしょ?」
「でもドンへにあげる」
「……俺風邪なんてひいてないよ?」
きょとん、としてヒョクチェの顔を覗き込むと、ほんのり紅潮した頬が視界に入る。
ほら、そういうところまでもヒョクチェじゃないとときめかない。これでまた、俺の頭の中のヒョクチェが膨らんでいく。
「……て…だろ…」
「え?なんて?」
「だって!お前この間喉痛いって言ってただろ!!忘れたのかよバカ!」
ぷいっと勢いよく顔を逸らしてしまったヒョクチェの言葉を辿ると、行きつくのは三日前の話。
そう言えば、続く歌番組の収録とドラマ撮影で喉が痛いってヒョクチェに嘆いてたっけ。
あの時のヒョクチェはあっそ、で終わってたけど、まさか覚えていてくれたなんて。そしてこんなものをくれるなんて…。
「…ッひょく大好きーーー!!!!!」
「うわぁッ!!!」
ガバリ、なんて可愛く聞こえるほどの勢いでヒョクチェに抱き着くと、
周りから睨むような視線が突き刺さる。
その視線の中に、ヒョクチェに熱視線を送っていた人間の視線も混じっていると思うと、
この上ない優越感、そして愛おしさ。
「ちょ、やめろ!痛い!重い!」
ヒョクチェが吐く毒なんて今の俺にとっては恋にしかならない。
やっぱり、ヒョクチェは俺が一番求めている唯一のものを持っている。
それはヒョクチェにしかない。だから、俺の頭はまたヒョクチェだけでいっぱいになる。
でも、ねえヒョクチェ。そろそろ、俺のものになってよ。
One thing
だから出ていってくれ
僕の頭から出ていって
そして僕の腕の中に堕ちてきてよ
これがなんなのかは分からないけど
僕はその『唯一』のものが欲しいんだ
そして、君はそれを持っているんだよ
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