自分よりいくらか華奢な体とか、
眩しいくらいに白い肌とか、
意地っ張りで強気なところとか、
泣き虫で心配性なところとか。
今年の夏は、きっとすごく暑くなる。
―波打ち際に想いを。―
「あつー…」
パタパタとうちわを使って仰いでみても、悲しいくらい効果はない。
生温い空気がうちわに流されて顔に掛かるだけで、暑さは全く減少されなかった。
よりによって、久々のオフにエアコンが壊れるなんて。
業者は明日にならないとこないというし、デジタル化した宿舎には、扇風機なんて物はない。
何度も出かけようかと思ったが、外に出たところで日差しが痛いだけだ。
下手にどこかに居座って騒ぎになるのもごめんだし。
そして何より、今日に限って俺一人だった。
「何で誰もいないのー…?」
なんだか声さえもべたべたしている。
この暑さの中で、もう蒸し風呂状態だ。
ドンへは何度もソファの上で寝返りを打ってみるものの、
体中べたついていてはそれさえも億劫になる。
諦めてもう一度うちわを動かし始めると、玄関の方で音がした。
「ただいまー」
自分よりいくらか、しっかりとした声。
ヒョクチェ、だ。
「お帰りヒョクチェ!!もうずーっと待ってたんだよ!!」
勢いよく玄関まで走って言ってそう言うと、ヒョクチェはいきなり持っていたビニール袋を
ドンへに押し付ける。
不思議に思いながらもそれを受け取ると、袋を濡らしていた水滴が手から腕に落ちた。
「え?なにこれ…」
「さっきコンビニで買ってきた。俺いらないから、ドンへに上げる」
ヒョクチェはさっさと靴を脱いで、自分の部屋もない12階にずかずかと上り込む。
きっと暑さにのぼせている俺を心配してきたんだな、なんて考えていると、
無性に胸の奥が疼いた。
ドンへは持っていたビニール袋の中を覗く。
水滴が伝っているものだから、きっとアイスか何かだろう。
「え…」
中を覗いてみると、やっぱりアイスが入っていて。
でもそれが普通のアイスならまだしも、そのアイスは、思わず言葉を失ってしまうアイスだった。
パッケージは、いかにも夏らしいコバルトブルーのロゴが入っている。
『シャリシャリ食感がたまらない!!』、というキャッチコピーの下には、
イメージ図として、ソーダ色のアイスキャンディーが映っていた。
「ヒョクチェ!!!」
ドンへは勢いよくリビングのドアを開ける。
ビクッと肩を動かしたヒョクチェが振り向くよりも前に、
ドンへは口を動かしていた。
「これ!このアイス!!覚えててくれたんだ!」
「はあ?」
「だから!昔二人でよく食ってたじゃん!!約束だってして…」
ああもう、すっごくもどかしい。
もっと込み上げてくる言葉があるのに、バカな俺は少しずつしか言葉が言えない。
だからヒョクチェもきょとんとしている。早く思い出してほしいのに。
―約束する。夏になったら…
「ね、ヒョクチェ!思い出した!?」
何とか切れ切れの言葉で全てを伝えると、
みるみるうちにヒョクチェの白い頬が赤く染まっていく。
なんだか、白い氷に甘い苺シロップがかかっていくかき氷みたいで綺麗だなぁ、なんて
呑気なことを考えていると、ヒョクチェが口を開いた。
「お前、覚えてたのかよ…」
「なっ!忘れるわけないじゃん!!ずっと覚えてたよ!!」
ずっと覚えていた。本当に、ずっと。
練習生時代のころ。と言っても、もう既にデビューが目の前に来ていた頃。
二人で歩く帰り道。毎日のように買って食べていたアイスは、甘いソーダのアイスキャンディーだった。
―なあ、ドンへ。俺ずっとお前に言いたいことがあったんだ。
―え?何?
真っ赤な下でペロペロとアイスを舐めるヒョクチェを、可愛いな、なんて思うのはいつものことだった。
あの日だってそう。少し夏が過ぎ去っていっている季節のこと。
―でも、今すぐには言えないかもしんない。
―えー?何でー?
―だから、言えるようになったら、その時は…
「これって、合図って意味でしょ!?」
自分でも、思いっきり頬が緩んでいるのが分かる。
おまけに目尻も下がっていて、口元は上がっていて、
声はすごくふにゃふにゃしている、はずだ。
ヒョクチェは顔を真っ赤にして俯いているままで、
さっきから何度も深く息を吸っている。
そんな様子でさえ愛しいと思う俺は、ちょっと重症なのだろうか。
「……じゃあ、言うけど…」
震える声で言ったヒョクチェは、大きく深呼吸をした。
そしてようやく顔を上げて、少しだけ潤んだ黒目がちな瞳を俺に向ける。
それは、期待してもいいということなのだろうか。
「俺、その…」
―もし言える準備ができた夏になったら、またお前にこのアイス買っていくから。
―え?ホント?
―約束する。夏になったら…
ヒョクチェの瞳が大きく揺れる。
それと同じように、俺の心臓も大きく跳ねる。
もし、もしも同じ気持ちだったら…
一気に体中が熱くなる。
それはきっと、エアコンが壊れているからでは、ない。
今年の夏は、きっとすごく熱くなる。
それは、ヒョクチェに恋をしている夏。
眩しいくらいに白い肌とか、
意地っ張りで強気なところとか、
泣き虫で心配性なところとか。
今年の夏は、きっとすごく暑くなる。
―波打ち際に想いを。―
「あつー…」
パタパタとうちわを使って仰いでみても、悲しいくらい効果はない。
生温い空気がうちわに流されて顔に掛かるだけで、暑さは全く減少されなかった。
よりによって、久々のオフにエアコンが壊れるなんて。
業者は明日にならないとこないというし、デジタル化した宿舎には、扇風機なんて物はない。
何度も出かけようかと思ったが、外に出たところで日差しが痛いだけだ。
下手にどこかに居座って騒ぎになるのもごめんだし。
そして何より、今日に限って俺一人だった。
「何で誰もいないのー…?」
なんだか声さえもべたべたしている。
この暑さの中で、もう蒸し風呂状態だ。
ドンへは何度もソファの上で寝返りを打ってみるものの、
体中べたついていてはそれさえも億劫になる。
諦めてもう一度うちわを動かし始めると、玄関の方で音がした。
「ただいまー」
自分よりいくらか、しっかりとした声。
ヒョクチェ、だ。
「お帰りヒョクチェ!!もうずーっと待ってたんだよ!!」
勢いよく玄関まで走って言ってそう言うと、ヒョクチェはいきなり持っていたビニール袋を
ドンへに押し付ける。
不思議に思いながらもそれを受け取ると、袋を濡らしていた水滴が手から腕に落ちた。
「え?なにこれ…」
「さっきコンビニで買ってきた。俺いらないから、ドンへに上げる」
ヒョクチェはさっさと靴を脱いで、自分の部屋もない12階にずかずかと上り込む。
きっと暑さにのぼせている俺を心配してきたんだな、なんて考えていると、
無性に胸の奥が疼いた。
ドンへは持っていたビニール袋の中を覗く。
水滴が伝っているものだから、きっとアイスか何かだろう。
「え…」
中を覗いてみると、やっぱりアイスが入っていて。
でもそれが普通のアイスならまだしも、そのアイスは、思わず言葉を失ってしまうアイスだった。
パッケージは、いかにも夏らしいコバルトブルーのロゴが入っている。
『シャリシャリ食感がたまらない!!』、というキャッチコピーの下には、
イメージ図として、ソーダ色のアイスキャンディーが映っていた。
「ヒョクチェ!!!」
ドンへは勢いよくリビングのドアを開ける。
ビクッと肩を動かしたヒョクチェが振り向くよりも前に、
ドンへは口を動かしていた。
「これ!このアイス!!覚えててくれたんだ!」
「はあ?」
「だから!昔二人でよく食ってたじゃん!!約束だってして…」
ああもう、すっごくもどかしい。
もっと込み上げてくる言葉があるのに、バカな俺は少しずつしか言葉が言えない。
だからヒョクチェもきょとんとしている。早く思い出してほしいのに。
―約束する。夏になったら…
「ね、ヒョクチェ!思い出した!?」
何とか切れ切れの言葉で全てを伝えると、
みるみるうちにヒョクチェの白い頬が赤く染まっていく。
なんだか、白い氷に甘い苺シロップがかかっていくかき氷みたいで綺麗だなぁ、なんて
呑気なことを考えていると、ヒョクチェが口を開いた。
「お前、覚えてたのかよ…」
「なっ!忘れるわけないじゃん!!ずっと覚えてたよ!!」
ずっと覚えていた。本当に、ずっと。
練習生時代のころ。と言っても、もう既にデビューが目の前に来ていた頃。
二人で歩く帰り道。毎日のように買って食べていたアイスは、甘いソーダのアイスキャンディーだった。
―なあ、ドンへ。俺ずっとお前に言いたいことがあったんだ。
―え?何?
真っ赤な下でペロペロとアイスを舐めるヒョクチェを、可愛いな、なんて思うのはいつものことだった。
あの日だってそう。少し夏が過ぎ去っていっている季節のこと。
―でも、今すぐには言えないかもしんない。
―えー?何でー?
―だから、言えるようになったら、その時は…
「これって、合図って意味でしょ!?」
自分でも、思いっきり頬が緩んでいるのが分かる。
おまけに目尻も下がっていて、口元は上がっていて、
声はすごくふにゃふにゃしている、はずだ。
ヒョクチェは顔を真っ赤にして俯いているままで、
さっきから何度も深く息を吸っている。
そんな様子でさえ愛しいと思う俺は、ちょっと重症なのだろうか。
「……じゃあ、言うけど…」
震える声で言ったヒョクチェは、大きく深呼吸をした。
そしてようやく顔を上げて、少しだけ潤んだ黒目がちな瞳を俺に向ける。
それは、期待してもいいということなのだろうか。
「俺、その…」
―もし言える準備ができた夏になったら、またお前にこのアイス買っていくから。
―え?ホント?
―約束する。夏になったら…
ヒョクチェの瞳が大きく揺れる。
それと同じように、俺の心臓も大きく跳ねる。
もし、もしも同じ気持ちだったら…
一気に体中が熱くなる。
それはきっと、エアコンが壊れているからでは、ない。
今年の夏は、きっとすごく熱くなる。
それは、ヒョクチェに恋をしている夏。
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