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「わっ!ヒョクチェの家って超広いじゃん!!」


部屋に入るなり、ドンへは目を大きくさせた騒ぎ出す。
別に普通のマンションの一室だろ?ドンへだって見たことくらいはあるだろうし。


「別に広くないだろ。普通だよ、普通。」

「広いよ!俺なんて段ボールに入れられてたもん!!」


広い!すっげー広い!、と何度も連呼するドンへを軽く睨む。
ただでさえいやいやながらも拾ってやったんだ。変な冗談はやめてほしい。


「ホントすげー…俺ずっと屋根のある家が欲しかったから…」

「ドンへ。冗談はほどほどにしろよ。」

「えー!冗談じゃないよ!!俺捨てられてたの!だから拾ってって言ったんじゃん」

「あのなぁ、なんで人が捨てられるんだよ。その前に、お前は飼われてたわけ?人間なのに?」

「そうだよ!じゃなきゃあんなかっこで外にいないでしょ!!」


まあ、確かに…。
この時期にあんな恰好で外にいる奴はなかなかいない。ドンへは髪だってボサボサだったし、今になってよく見れば、腕や首には渇いた泥がへばり付いている。

でもそれを、「捨てられた」なんて理由で信じられるわけがない。


「もう分かったから。とりあえずドンへ、風呂入ってこいよ」

「え!?いいの?」

「だって、ドンへ汚いから。」

「うわ!ヒョクチェひどーい!!」


あひゃひゃと甲高く笑いながら、ドンへは俺の指差した脱衣所へ向かう。

あ、そういえば、アイツの着替えがなかった。
持参しているわけがないし、またあの服を着せるのもなんだし…


「昔着てたスエットどこだっけ…」


無意識のうちに、足は自室へ向かっていた。
本当に不思議。あんな訳のわからない奴にここまでするなんて、どうかしてる。

それでも、あんな寒いところで、またずっと拾ってくれる人を待っているのかと思うと、連れて帰らずにはいられなかった。

理由は多分…それだけ。



「おーいドンへー!着替えここ置いとくぞー」

「………」

「…?あれ?ドンへー?」


脱衣所から声を掛けても、何らドンへは反応しない。
ポタリ、と水粒が落ちる音だけがバスルームから聞こえて、ヒョクチェの頭の中ははてなマークでいっぱいになった。


「おーいドンへ。ちょっと入るぞ…」


まさか。まさかだとは思うけれど。
飼われてた、なんていうから、シャワーの使い方が分からないんじゃないのか?
別にあの言葉を信じた訳じゃないけど、ドンへならやりかねない。

不安になってドアを開けると、やけにシンとしていて、ひんやりとしているバスルームが目の前に広がる。


「あ、ドンへ!お前どうし…」

「わーーー!!!ヒョクチェーーーー!!!!」

「はっ?な、ちょ…うわぁッ!!!」


シャワーを掴んで硬直しているドンへに声を掛けたら、すごい勢いで抱き着かれた。
その瞬間、ぐらりと世界が動いて、あっという間にバスルームの濡れたタイルの上に倒れ込む。


「ちょ、ドンへ…って、わ!!お前冷た!!」


覆いかぶさる様な体制のドンへの体を触ると、
ひんやり…どころか、少しでも触ったら指先が痛くなるような冷たさが伝わってくる。

ガクガクと震えるドンへの体に驚いてギュッと抱きしめると、ドンへは肩に額をぐりぐりと押し付けてきた。


「ドンへ、なんでこんな…」

「……ヒョクチェ、俺冷水浴びた…」

「はあ?お前ただでさえ冷えてたのになんで…」

「だって!!だって、俺…」



シャワーの使い方分かんなかったんだもん、と、予想通りの答えが耳元で小さく響く。


「ドンへ…何やってんだよ…」

「うぅ~…ひょくちぇ~…」

「はいはい。分かったから。とりあえず体あっためないと」


今にも凍ってしまいそうなドンへの体を起こそうと上半身を動かしたら、意外と力のあるドンへが押さえつけてきて制された。

何すんだ、とドンへを見ると、ドンへは思いっきり眉を下げて、泣きそうな顔をしていた。


「いい…ヒョクチェがあったかいから」

「ちょ、ドンへ…」

「俺、ヒョクチェだけでいいもん。もうシャワー嫌いだもん。」


うー、と唸って、ドンへは俺の体を抱きしめた。
ただでさえ冷たいドンへの体が上から圧力をかけて、冷水で浸ったタイルが下からじわりと冷やしてく。
背筋がぞくぞくとするような寒さ。それに第一…ドンへ、素っ裸だし。


「ドンへ、部屋の方があったかいから」

「やだ。ここがいい、ヒョクチェじゃなきゃやだ。」

「我儘、言うなよ…」



無理にドンへを離そうとしても、ドンへはギューっと抱き着いて離れる様子がない。
いや、別に、変な気起こすわけじゃないよ?
相手男だし、しかも意味わかんない奴だし。

ただ、その…
ドキドキしない、訳じゃない。ちょっと。ほんのちょっとだけど。


「俺、ヒョクチェがいい…」


変な意味なんてないのに。
ほんのちょっとだとはいえ、ドキドキしてしまう俺は、いったいどうしたんだか。









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