「ヒョク」
何時だってそうだ。
優しく名前を呼ぶと、何十倍も優しい笑顔が返される。
言えなかった言葉も、言いたかった言葉も、
優しく名前を呼ぶ自分の声から、全て、伝わればいいと思った。
―名前を呼んで―
居心地がいいというのは、まさにこのことだろう。
お互い同じ部屋にいて、違うことをしていて、何も話していなくても、酷く安心できる。
読んでいた雑誌から視線を外したドンへは、キュヒョンから借りたパソコンを
食い入るように見つめるヒョクチェを見た。
窓から差し込む強めの日差しが、ヒョクチェの綺麗な金髪を照らしている。
「なあ、ヒョク」
自然に漏れた名前の響きが、どす黒くなったドンへの心に染みる。
何百回、何千回と呼んできた名前が、今さら痛いほどに突き刺さる。
「なあ、ヒョクってば」
用事なんて、なかった。
ただ、名前一つで、ドンへの心はじんわりと温まる。
ヒョクがいて、ヒョクの名前が「ヒョク」であって、当たり前だけど、嬉しい。
ただ、ヒョクチェはもう、ドンへと同じ気持ちではない。
分かってるんだ。今さら蒸し返してんなよ、バカドンへ。
自分で自分に説教をすると、自然に頬が緩む。
この顔なら、いける。優しく、名前を呼べる。
「おーい、ヒョクー」
丸く、柔らかい声が出た。
だから…とは言い切れないけど、ヒョクチェが「何?」と聞き返してくれた。
「暇なんだよ。もう雑誌も読み終わっちゃたしさ」
ポイっと持っていた雑誌をわざとらしくベットの上に投げると、
椅子に座ったままぐるりと振り返ったヒョクチェが、優しく笑った。
「俺はドンへと違って暇じゃないんだよ」
「えー?だってパソコンしてるだけだろー?」
ふざけて足をジタバタさせて言うと、肩を揺らして笑ったヒョクチェが、
得意そうにパソコンの画面をドンへに見せる。
眉を寄せてパソコンの画面といつまでも睨めっこしていると、
痺れを切らしたヒョクチェが呆れたように言った。
「メールだよ、メール。俺の携帯今修理中だろ。」
ドンへが「あっ」と目を見開いて納得すると、ヒョクチェは「遅い」と笑った。
「でもさ、そんな長々と誰とメールしてるわけ?」
軽い気持ちで聞いたはずだったのに、数十秒立たないうちに、
ドンへは顔を強張らせる。
答えなんて、分かっているのに。やっぱり俺は、相当なバカだ。
「誰って…言わなくても分かるだろ、ドンへなら」
照れたように笑うヒョクチェを呆然と見ると、今度は困ったように
ヒョクチェは首を傾げた。
「ドンへ?お前、どうした?」
しばらくの間、硬直していたドンへの頬を、白くしなやかなヒョクチェの手が伝う。
ビクリと大袈裟に反応したドンへに驚いたように、ヒョクチェの肩も跳ねた。
「なんだよ、そんなびっくりする事?」
「あ…いや、その…」
困ったような表情を浮かべたヒョクチェを前に、ドンへは慌てる。
頬はまだ熱を帯びていて、特に、ヒョクチェが触れた所が、溶けてしまうかのように熱い。
分かってる。こんなのヒョクチェには何てことない。
「ひょ、ヒョクごめん…ボーっとしてたから驚いて…」
両手を顔の前で合わせると、眉を下げて笑うヒョクチェが見えた。
そんなヒョクチェ越しに見えたパソコンの画面には、チカチカと点滅する
「メール受信」の文字が映っている。
「あ、ヒョク。メール来てる」
「え?あ、ホントだ」
勢いをつけて椅子を回したヒョクチェは、パソコンとまた睨みあうのかと思えば、
すぐにまた、ドンへの方を向いた。
「ヒョク、メール打つの早いな。」
「や、返信はしてないけど。」
「え!?いいのかよ!相手は彼女じゃ…」
はたりと、ドンへの体を巡る空気が絶たれた。
途端に息が吸えなくなって、言葉に詰まったドンへは、ごくりと喉仏を上下させる。
言いたくなかったことを、まるで神様が、言わなくていいと言ってくれている様だった。
言葉が途切れてしまったドンへを心配そうに見つめていたヒョクチェは、
しばらくして、ドンへが腰かけるベットの上に腰を落とす。
ヒョクチェの香が体全体を包み込んで、ドンへはまた、息が詰まる。
「ヒョク、俺のことはいいから、彼女に…」
「やめた。」
「は?」
「俺も暇になった。だからドンへと居る。」
ゴロンと横になったヒョクチェの耳は、ほんの少し色づいている。
ドンへは、顔の筋肉が一気に緩み、目じりが下がる。
「なあ、ヒョク」
用事は、ない。
それでも、ヒョクチェは、優しく微笑み返してくれた。
ねえ、ヒョク。
誰のものでもいいから。
俺が名前を呼んだら、いつでも、笑ってよ。
好きだよ。
伝わればいい。甘く呼ぶ名前から、全て。
何時だってそうだ。
優しく名前を呼ぶと、何十倍も優しい笑顔が返される。
言えなかった言葉も、言いたかった言葉も、
優しく名前を呼ぶ自分の声から、全て、伝わればいいと思った。
―名前を呼んで―
居心地がいいというのは、まさにこのことだろう。
お互い同じ部屋にいて、違うことをしていて、何も話していなくても、酷く安心できる。
読んでいた雑誌から視線を外したドンへは、キュヒョンから借りたパソコンを
食い入るように見つめるヒョクチェを見た。
窓から差し込む強めの日差しが、ヒョクチェの綺麗な金髪を照らしている。
「なあ、ヒョク」
自然に漏れた名前の響きが、どす黒くなったドンへの心に染みる。
何百回、何千回と呼んできた名前が、今さら痛いほどに突き刺さる。
「なあ、ヒョクってば」
用事なんて、なかった。
ただ、名前一つで、ドンへの心はじんわりと温まる。
ヒョクがいて、ヒョクの名前が「ヒョク」であって、当たり前だけど、嬉しい。
ただ、ヒョクチェはもう、ドンへと同じ気持ちではない。
分かってるんだ。今さら蒸し返してんなよ、バカドンへ。
自分で自分に説教をすると、自然に頬が緩む。
この顔なら、いける。優しく、名前を呼べる。
「おーい、ヒョクー」
丸く、柔らかい声が出た。
だから…とは言い切れないけど、ヒョクチェが「何?」と聞き返してくれた。
「暇なんだよ。もう雑誌も読み終わっちゃたしさ」
ポイっと持っていた雑誌をわざとらしくベットの上に投げると、
椅子に座ったままぐるりと振り返ったヒョクチェが、優しく笑った。
「俺はドンへと違って暇じゃないんだよ」
「えー?だってパソコンしてるだけだろー?」
ふざけて足をジタバタさせて言うと、肩を揺らして笑ったヒョクチェが、
得意そうにパソコンの画面をドンへに見せる。
眉を寄せてパソコンの画面といつまでも睨めっこしていると、
痺れを切らしたヒョクチェが呆れたように言った。
「メールだよ、メール。俺の携帯今修理中だろ。」
ドンへが「あっ」と目を見開いて納得すると、ヒョクチェは「遅い」と笑った。
「でもさ、そんな長々と誰とメールしてるわけ?」
軽い気持ちで聞いたはずだったのに、数十秒立たないうちに、
ドンへは顔を強張らせる。
答えなんて、分かっているのに。やっぱり俺は、相当なバカだ。
「誰って…言わなくても分かるだろ、ドンへなら」
照れたように笑うヒョクチェを呆然と見ると、今度は困ったように
ヒョクチェは首を傾げた。
「ドンへ?お前、どうした?」
しばらくの間、硬直していたドンへの頬を、白くしなやかなヒョクチェの手が伝う。
ビクリと大袈裟に反応したドンへに驚いたように、ヒョクチェの肩も跳ねた。
「なんだよ、そんなびっくりする事?」
「あ…いや、その…」
困ったような表情を浮かべたヒョクチェを前に、ドンへは慌てる。
頬はまだ熱を帯びていて、特に、ヒョクチェが触れた所が、溶けてしまうかのように熱い。
分かってる。こんなのヒョクチェには何てことない。
「ひょ、ヒョクごめん…ボーっとしてたから驚いて…」
両手を顔の前で合わせると、眉を下げて笑うヒョクチェが見えた。
そんなヒョクチェ越しに見えたパソコンの画面には、チカチカと点滅する
「メール受信」の文字が映っている。
「あ、ヒョク。メール来てる」
「え?あ、ホントだ」
勢いをつけて椅子を回したヒョクチェは、パソコンとまた睨みあうのかと思えば、
すぐにまた、ドンへの方を向いた。
「ヒョク、メール打つの早いな。」
「や、返信はしてないけど。」
「え!?いいのかよ!相手は彼女じゃ…」
はたりと、ドンへの体を巡る空気が絶たれた。
途端に息が吸えなくなって、言葉に詰まったドンへは、ごくりと喉仏を上下させる。
言いたくなかったことを、まるで神様が、言わなくていいと言ってくれている様だった。
言葉が途切れてしまったドンへを心配そうに見つめていたヒョクチェは、
しばらくして、ドンへが腰かけるベットの上に腰を落とす。
ヒョクチェの香が体全体を包み込んで、ドンへはまた、息が詰まる。
「ヒョク、俺のことはいいから、彼女に…」
「やめた。」
「は?」
「俺も暇になった。だからドンへと居る。」
ゴロンと横になったヒョクチェの耳は、ほんの少し色づいている。
ドンへは、顔の筋肉が一気に緩み、目じりが下がる。
「なあ、ヒョク」
用事は、ない。
それでも、ヒョクチェは、優しく微笑み返してくれた。
ねえ、ヒョク。
誰のものでもいいから。
俺が名前を呼んだら、いつでも、笑ってよ。
好きだよ。
伝わればいい。甘く呼ぶ名前から、全て。
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