俺の世界は中途半端に淀んでいる。



苦しくてもがいても、悲しくて泣くじゃくっても、

俺の世界は、いつだって中途半端に闇のままだ。






―ペールブルー―





あと少し。あと少しで、俺の世界は色を変えてくれるのに。




「……ヒョク、」




そんな目で見つめるな。ドンへは知らない。いつだって知らない。ドンへといると、俺がどんな気持ちになるのかを。


服の上から撫でる様な手つきが這い回る。悔しいくらいに整ったドンへの顔が近づいてきて、貪るようなキスが降ってくる。



「ッんっ…」

「……は、…」



やけに熱いドンへの舌がやらしく歯列をなぞると、背筋がゾクゾクするような感覚に頭の奥が痺れる。
逃げたくても逃げられない。顔を少しでも背けようとすると唇を甘噛みされて、俺はさほど痛くないのに、いつも泣きたくなる。

ドンへは俺を愛してくれない。空っぽな俺に、自分の欲を注ぎ込むだけ。
仕方がない。だって俺はドンへに愛されていいような人間じゃない。
ドンへみたいに顔がいいわけではないし、ドンへみたいに愛らしくて素直じゃない。人から好かれる要素を持っていない。


だから、俺はいつだって愛されたかった。

俺の世界は中途半端は灰色。ドンへに愛されたくてどうしようもないのに、こうして体だけでも繋がっていられると、不本意にも幸せだと思ってしまう。



「ね、ヒョク、」

「………な、に…」

「愛してるって言って。俺が欲しいって言ってよ。」

「……愛してるよ、ドンへ」

「それで?」

「ドンへが、欲しい」

「…ねえヒョク、それがほんとならキスして。ヒョクからキスしてよ」

「……いい、よ」



腕をドンへの首に巻きつける。最近逞しくなったその体を引き寄せて唇に触れる程度のキスをすると、
そのままドンへの手が俺の後頭部を抑えた。



「!ッ…」



舌の裏側を吸われるように撫でられて、世界がちかちかと光りだす。
ドンへは俺を逃がさない。愛していないのに、逃がしてはくれない。



「ん、ふぁッ…」



歯の付け根の裏側を舐められると、口内に留まらず全身が痺れに似た感覚を覚える。
力が入らなくて口を開いている事すら精一杯で、なのにドンへの下はまだ容赦なく口内を動き回っている。



―愛してないなら、こんなことしないで。
だって泣きたくなる。涙が滲んでいるのは息苦しかったからだと言い訳がつけられるから。

ドンへに愛されたい。でも、ドンへといるといつだって泣きたくなる。苦しい、辛い。
傍にいると苦しくて、離れていると寂しい。俺の中途半端に灰色な世界は、ドンへに愛されると変わってくれるんだろうか。



「……どんへッ…」

「ヒョク?」

「やだ、やだッ…どんへ…」

「やだ?何がやなの、ヒョク」

「…ッさわら、ないで…」



触るなら愛して。お願い、俺を愛してよ。
そうしたら世界は色を変えるはずなのに。傍にいると泣きたくて、苦しくて仕方がないドンへに愛されれば、俺の世界は変わる。



「ヒョク、なんでそんな事言うの…?」

「…ッ…」

「愛してるって言ったじゃん。なんで?嘘だったの?」

「どん、へ、」

「一人にしないでよ、ヒョク。ヒョクじゃないとダメなんだ。」



嘘ばっかり、嘘ばっかり。
なら愛して。もう苦しくて苦しくて息すらできない。



「好きだよ、ヒョク。愛してるんだ。」

「…ドンへ…」

「ほら、愛してるって言って。俺しかいない、俺の傍にいるって言って。」



つーっと頬を暖かい雫が伝う。
苦しくてもがいているのに、ドンへは俺を救ってくれない。野放しのままで。
ほら、今だって、俺の涙に気づいていない。俺の涙が見えていない。



「……愛してるよ、ドンへ。俺にはドンへしかいない。」

「うん」

「…ドンへの傍に、いるから」

「うん」



ふわりと微笑んだドンへが、ちゅ、と優しいキスを落とす。
髪の毛に絡みつくドンへの指が、何もかも悟っているようで、涙が嵩を増した。


ドンへに愛されたい。
そうしたら、俺の世界はちゃんと灰色になってくれる。中途半端で苦しむことなんてなくなる。





ねえ、ドンへ。俺を愛して。
そうして、俺の世界を灰色に変えてよ。










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